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零細企業の“マイナンバー倒産”が始まる?
社会保険料の強制徴収が引き金に…

マイナンバーで社会保険料の滞納企業が捕捉されると…

前回は、北見昌朗の空想ながら、地方のスーパーが社会保険料の滞納分(2年分)を強制徴収され、倒産した記事を書いた。

これは、単なる小さな事件ではない。実はマイナンバー時代になると、全国で同様の倒産が相次ぐことが想像される。倒産が相次ぐどころか、倒産ラッシュといっても過言ではない。

マイナンバーの導入で収入の捕捉が容易になるので、会計検査院が摘発に乗り出そうと手ぐすね引いて待っているからだ。

本来なら加入する義務があるのに入っていない人は何人いるのか?

今の日本では、本来なら入るべき社会保険(厚生年金・健康保険)に入っていない会社が少なからずある。社会保険というのは、法人ならば、法的には人数を問わずに加入義務が生じる。入っていないのは違法だ。

加入義務があるはずだが加入していない人は、いったいどれだけいるのだろうか? 国税庁のデータによると、年末調整を行った人は4220万人(平成25年度)いた。これに対して、厚生年金の被保険者は3527万人(同)であり、差が693万人いる。

この693万人もの人が、いわゆる“短時間勤務”だったとは考えにくい。そのなかには、本当は長時間勤務をしていて加入義務のある人もいたはずだ。なかには、会社ごと不正に加入していない先もあることだろう。

仮に100万人が過去の社会保険料の滞納分を請求されたら…

仮の数字ではあるが、もしも100万人が“本来加入義務があった”と認定されたら、どうなるだろうか? その年収が仮に200万円だったとする。100万人×200万円は、人件費の総額が2兆円になる。社会保険料は人件費の3割(労使で折半負担)だから、その1年分の社会保険料は6000億円に及ぶ。時効が2年間なので、2年分徴収されると、1兆2000億円に達する。

過去2年間の社会保険料の滞納分は1兆円以上に

いかがだろうか? 1兆2000億円である。だが、著者の想像では実際にはもっと大きな額になると想像する。平成25年のデータによると、健康保険の保険料8兆円で、厚生年金の保険料は25兆円だった。そこに1兆円以上も加わったら、財政事情がいっぺんに楽になりそうだ。

他の数字と比較してみよう。消費税(5%時代)は9兆円だった。所得税は8兆円だった。法人税は10兆円だ。1兆2000億円という金額の大きさがわかるだろう。

数千万円単位の請求書はザラ

著者は前回の記事において、従業員20人の企業の社会保険料の滞納分が「3600万円」と書いたが、それは従業員が20人で、その平均年収が300万円だったという前提で試算した数字だ。これはまだ可愛いほうかもしれない。規模が大きければ億単位になってもおかしくない。

会計検査院は手ぐすね引いて待っている

会計検査院は、国や地方自治体の会計を検査するのが役目である。ホームページには、「検査報告」が載っていて、「不当事項」として指摘した実績が誇らしげに載っている。特に厚生労働省の関係は問題が多いとされる。その検査の姿勢は厳しく、いわゆる情状酌量というものがないことで知られている。社会保険料は時効が2年だから、徴収する際は2年分を本当に徴収する。ネットで「会計検査院 社会保険料」と検索すれば、多くのヒットがあるので、一度ご覧いただきたい。

もはや言い逃れは…

マイナンバーが導入されると、役人が法人番号と個人番号を端末に打ち込みさえすれば、数字がパンと出てくる。「法人なのに、従業員に給与を払っているのに、社会保険料を払っていないところはどこか?」など、見つけるのはごく容易だ。

協会けんぽや年金機構のバックには会計検査院がいるのだから、もはや言い逃れは難しいだろう。

社会保険料を滞納している先の多くは零細企業

本来なら加入するべき社会保険料を滞納しているのは、どんな先だろうか? 著者は小規模な会社を想像する。たとえば街の商店だ。小さな店なのに法人組織になっていて、従業員がいないか、いても数人という小さな店だ。

そこにとっては、社会保険料を過去に訴求して徴収されるのは死活問題になりかねないだろう。潰れるところも少なくないはずだ。これを機に廃業するところもあるだろう。

世の中には「法を遵守していない会社のほうにこそ問題がある」と指摘する向きもあるだろう。それは正論かもしれないが、小さな企業であっても潰れられたら困る人が大勢いる。

従業員が路頭に迷ってしまう。倒産されたら取引先にも被害が出てしまう。「コンプライアンスだから」という理屈だけでは割り切れない要素がある。

マイナンバーは平成28年スタート

マイナンバーは平成27年10月に交付され、28年から始まる。マイナンバーという制度は大きな影響を与えそうだ。明と暗という形で、笑う人と泣く人が出てきそうだ。